北九州市立大学国際環境工学部

生命工学科

望月研究室

研究内容

生体を構成する高分子から作る新規生体機能性材料

 新たな医療モダリティとして、標的特異的に作用するバイオ医薬品が注目を集め始めると同時に薬物送達システム(DDS)の対象も従来の低分子化合物からバイオ医薬品へとパラダイムシフトを起こしています。しかし、人工的に作られた高分子材料をDDSキャリアに用いると細胞内外の様々なセンサーに引っかかり異物として認識されてしまう恐れがある。一方で、細胞はタンパク質、核酸、糖鎖といった生体高分子を介してコミュニケーションをとっています。効果的で体に優しい医療材料を作るにはこうしたコミュニケーションに耳を傾けよく理解することが必要不可欠です。我々は、こうした細胞内外で行われる様々な認識機構を利用した新規生体機能性材料の開発を目指しています。

Key word
核酸、タンパク質、糖鎖、ワクチン、アジュバント、薬物送達システム(DDS)、バイオコンジュゲート
1. がん細胞への抗原送達を介した抗原性の改変

 がんワクチンで使用されている抗原は自己由来ということもあり、その抗原性は決して高くない。がん細胞の抗原性を高めることでがんワクチンの効果が向上すると期待されます。がん細胞はヒアルロン酸(HA)の受容体の1つであるCD44を過剰に発現しているため、HAと抗原(タンパク質 or ペプチド)から成るコンジュゲート体を作製することでHAを介して抗原をがん細胞へ特異的に送達可能になります。抗原となるタンパク質(or ペプチド)を送達させることで、がん細胞の提示する抗原を自己から非自己へと置き換えることによる抗原性の改変を目指しています。

● 代表的な論文

  1. S. Ogata, R. Tsuji, A. Moritaka, S. Ito, *S. Mochizuki. Modification of antigenicity of cancer cells by conjugate consisting of hyaluronic acid and foreign antigen. Biomater. Sci., 11(17), 5809-5818 (2023)
  2. R. Tsuji, S. Ogata, *S. Mochizuki. Interaction between CD44 and highly condensed hyaluronic acid through crosslinking with proteins. Bioorg. Chem., 121, 105666 (2022)
がん細胞への抗原送達を介した抗原性の改変

S. Ogata, R. Tsuji, A. Moritaka, S. Ito, S. Mochizuki. Biomater. Sci., 2023

がん細胞への抗原送達を介した抗原性の改変
2. 核酸センサーを介した刺激によるがん細胞の免疫応答の向上

 がん細胞はワクチン投与で誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)に認識され攻撃を受けます。しかし、「がん細胞」はCTLを克服・回避するために成長・進化します。その手段の一つが「MHCクラス I 分子」の発現抑制です。CTLはがん細胞上のMHCクラス I 分子に提示されるがん抗原を目印に攻撃を行うが、MHCクラス I 分子の発現が抑制されると、もはやCTLは目印を失い攻撃できません。とりわけ皮膚がん(悪性黒色腫:メラノーマ)はMHCクラス I 分子未発現ながん細胞として有名です。細胞は様々な核酸センサーを有しています。適切な核酸でそのセンサーを刺激することで細胞を活性化(MHCクラス I 分子の発現誘導)させることが可能です。現在はHAと核酸(二重鎖RNA)から成るコンジュゲート体を作製することでがん細胞の免疫に対する感受性の向上を目指しています。

核酸センサーを介した刺激によるがん細胞の免疫応答の向上
3. CpG-ペプチドコンジュゲート体による免疫誘導

 抗原ペプチドと免疫刺激能を有する核酸(CpG-DNA)とを化学結合させたコンジュゲート体により抗原特異的な免疫誘導を目指しています。このコンジュゲート体は細胞に取り込まれた後、(1)エンドソーム内でTLR9に認識され、(2)細胞質内でペプチドが遊離し、(3)小胞体内でMHCクラスI分子に効率よく結合する(抗原提示される)よう設計されています。

● 代表的な論文

  1. H. Irie, K. Morita, M. Matsuda, M. Koizumi, *S. Mochizuki. Tyrosinase-related protein2 peptide with replacement of N-terminus residue by cysteine binds to H-2Kb and induces antigen-specific cytotoxic T lymphocytes after conjugation with CpG-DNA. Bioconj. Chem., 34(2), 433-442 (2023)
  2. H. Irie, K. Morita, M. Koizumi, *S. Mochizuki. Immune responses and antitumor effect through delivering to antigen presenting cells by optimized conjugates consisting of CpG-DNA and antigenic peptide. Bioconj. Chem., 31(11), 2585-2595 (2020)
CpG-ペプチドコンジュゲート体による免疫誘導
Bioconjugate Chemistry
Bioconjugate Chemistry